みんなで作り上げる、はじめてだらけのアール・ブリュット展―山口県障害者芸術文化活動支援センター(山口県)
「発表の場をつくりたい!」という気持ちがさらなる夢をつくる
障害者の芸術文化活動を通じたさらなる自立や社会参加の促進を図るため、「山口県障害者芸術文化活動支援センター」が令和7年5月1日に開設された。
芸術文化活動に関する相談支援、参加や発表の機会の確保、情報発信など、障害者本人を中心に、芸術文化や福祉に留まらないさまざまな領域の人が関われるような事業を計画している。
センターが設立されてまだ間もない9月、支援センターは「まにまにのかたち アール・ブリュット展」※ を開催した。
※3つの市を巡回し、すでに山口市・岩国市の2箇所では開催済み。山口市での開催の様子を取材した。12月より下関市にて開催予定(展示会情報は後記)。
「まにまに」とは、心のままに、という意味合い。障害のある人が日々生みだすいろ・かたちを一同に集めた。タイヤやギターにびっしりと描かれた文字やカラフルな作品を見ていると、いつのまにか心がほどけていく。山口県障害者芸術文化活動支援センターの武居ひとみ(たけすえ・ひとみ)さんに、展覧会の背景や工夫を聞いた。

山口県障害者芸術文化活動支援センター 武居ひとみさん
展覧会の開催に至ったきっかけを教えて下さい。
武居 山口県では、2018年の障害者文化芸術作品等・発掘事業、そして県立美術館で展示された流れから昨年度、今回の会場であるクリエイティブ・スペース赤れんが主催で「異彩のゆびさき アール・ブリュットin赤れんが」展が開催されました。
昨年11月にアール・ブリュット展を継続したいね、と、監修の倉田研治(くらた・けんじ 山口県立大学 文化創造学科准教授)先生と話していたんです。そのときは実現できないだろうと思っていましたが、今年の5月に支援センターを受託することになり、倉田先生にすぐに連絡をし、ぜひ開催したいけどまず何をしたらいいか、場所はどこがいいか相談しました。
支援センターの立ち上げから間もないなかで、展覧会を企画・開催するのは大変だったのではないでしょうか?
武居 そうですね。まずは会場探しを行ったのですが、スムーズに行くかと思っていたら、断られたところもありました。私はアート以外の事業もあるため、ずっと会場にいられない。「作品になにかあったら」ということがネックとなりました。
なので、「常時、受付対応ができない」という事情を話して、共感してくれた会場で実施できることになりました。これまで企画書は書いたことがなかったので、倉田先生には企画書の段階から相談しました。
今回は3箇所で巡回展をするのですが、作家の一人である村井保(むらい・たもつ)さんが下関市出身なので、どうしても下関市でもやりたかったんです。でも候補の場所からは断られつづけ、それでもどうしてもやりたい!と倉田先生に相談し、紙屋さんなんですけど、直接、一緒にお店に行って交渉し開催することになりました。
展示に向けての準備はどのように進められましたか?
武居 展示の準備では、アートの人たちにとっての当たり前が、アート以外の分野の私にとっては当たり前ではなくて、毎日びっくり、常に大事件です!
たとえば展覧会で、「はじめに」(冒頭の主催者挨拶)を作らなきゃいけないねって話になって、「『はじめに』ってなんですか?」という状態なんです。「なんですか?」とひたすら聞き続けて、教えてもらっています。みんな笑顔で丁寧に教えてくれてありがたいですね。

刺繍作品のひとつでもいいので裏側を見せたいと話し、展示の工夫をしてもらいました、と武居さん。
手探りと試行錯誤の日々だったのですね。どんなことがエネルギーになりましたか?
武居 作品を借りるタイミングで、作家である村井さんに会ったことが情熱のきっかけになりました。彼は人の顔を造形する作家なのですが、山口県知事の顔を何度も作っているんです。いつか、知事と写真を撮るのが夢だと語ってくれました。それまでは作品を写真で見ていただけでしたが、会ってみて、がんばっていることや夢が伝わってきたら胸が熱くなって…発表の場をもうけたいと思いました。
これまでは事務職だったので、何で今、こんなに走り回って忙しいのか自分でも不思議でした。「アートは現場に行くことが大切なんだ」と倉田先生に教えられ、「会うこと」のエネルギーの大きさに気づき「じゃんじゃん会いに行こう!」に変わった瞬間でした。

下関在住の作家、村井保さんによる作品。
武居 作家のなかには、自身の想いを伝えられる人も、そうではない人もいます。でも、作家がそこに立っているだけでオーラが伝わってくるんです。なので、今度は、展覧会中に「ご本人登場」の場面を多くつくりたい。次の夢ができました!この展覧会をどんどんグレードアップさせたいと思います。
たくさんの方に観ていただきたいです。展覧会の広報ではYoutubeも活用されていますね。
武居 Youtubeでの発信は撮影、編集を大学院生にお願いしています。Youtubeの発信を私もできるように教えてもらったりもしています。
アート関係の先生や学生の力を借りつつ、一喜一憂しながらみんなで作り上げた展覧会には、エネルギーが溢れていました。近隣の方は、ぜひご鑑賞ください。
=展覧会情報=
まにまにのかたち アール・ブリュット展
2025年12月18日(木)~21日(日)9:00~17:00
山口県下関市貴船町1-1-33
Art Gallery Space 植木紙店 1Fギャラリー
観覧料 無料
2025年12月
取材・文:渡邊めぐみ

武居 ひとみ(たけすえ ひとみ)
山口県障害者芸術文化活動支援センター事務局。
大卒後、一般社団法人山口県身体障害者団体連合会(山口県障害者社会参加推進センター)に障害のある方に興味があり体育会系にも関わらず福祉の職場に就職。障害のある方の社会参加や生きがいになる事業を開催、障害のあるなしに関わらず仲間づくりや楽しむことを目的とする事業を開催してきた。令和7年5月より山口県障害者芸術文化活動支援センターを受託したことをきっかけにアートを通じた共生社会や障害に対する正しい理解を深めることができるような事業を開催し、誰もが楽しく有意義に、そして充実した生活を送れる社会を目指し活動している。