大変なときだからこそ、被災地の子どもたちが安心して楽しめる時間を!能登でアートワークショップを開催するにあたっての気づき(石川県)
被災した事業所になるべく負担をかけず、アートで心をほぐすために
令和6年(2024年)の元日に起こった能登半島地震。
同年3月には、東海・北陸ブロック広域センターが石川県能登地域の福祉事業所に対してニーズのヒアリングを実施。まだまだ復興が進まない中ではあったが、「普段と違う非日常の時間を、子どもたちに過ごしてもらいたい」と事業所からも声があがったという。そこで、アートワークショップが子どもたちに向けて開催された。
この事業に取り組んだのが、東海・北陸ブロック広域センターの坂野 健一郎(さかの・けんいちろう)さん、金沢市の文化・芸術活動支援センター「かける」の菊 義典(きく・よしのり)さん。ワークショップは、石川県在住のアーティストの村住 知也(むらずみ・ともや)さんが現地に足を運び、開催した。ワークショップ開催までのプロセスや、連携の秘訣を伺った。
「令和6年能登半島地震における被災地支援」では、どのような事業所でアートのワークショップを開催しましたか?
坂野 七尾市に拠点を置く、ふたつの放課後等デイサービス事業所を対象にワークショップを実施しました。主に障がいのある子どもたちを放課後に預かっています。
実は震災後すぐに様々な個人・団体から「アートのワークショップで被災地の支援がしたい」「何かできることはないか?」の声が寄せられました。ありがたいことではありますが、被災地の能登はライフラインも寸断されていたところが多くて、正直、それどころではない状態だったんです。
菊 私のところにもそのような問い合わせがたくさん来ましたが、いったん坂野さんのいる広域センターで引き取ってくれました。被災して本当にいろいろな対応をしていくなかで、「ワークショップで支援がしたい」の声に対応していくことは、かなり困難でしたから。

村住さんが工業用ビニールチューブを持ち込み、子どもたちとトンネルのような非日常空間をつくりました
そんななか、ワークショップの開催に向けて、坂野さん、菊さんが動き出したのが、2024年3月の後半だとお聞きしています。
菊 そうですね。まだ道路も寸断されていて、水道も通っていないようなタイミングでした。しかし、私たちで何かできることはないかと、2024年3月後半、坂野さん、アーティストの村住さんとオンラインミーティングをさせていただきました。
村住さんは、金沢市や七尾市の事業所で美術教室を開催されていた経験がある方です。また村住さんの柔らかく余白のあるお人柄が、いい時間をつくってくれると考えました。
そのミーティングで村住さんが言ったのは「表現とか、アートとか、いったん置いときましょう」「アートのフレームを外して、まずはとにかく楽しい時間をつくってあげたいですね」という言葉。これがとても印象に残っています。
坂野 事業所からも「大変な時だからこそ、非日常の楽しい時間を子どもたちに過ごしてもらいたい」とのリクエストがあり、私と菊さんもそう考えていました。そんな時に村住さんからも、同じご意見が出てきて、とてもうれしかったのを覚えています。
2024年4月には第1回目のワークショップが開催されたそうですね。各事業所の反応はいかがでしたか?
村住 当時、地震が起きてまだ4カ月目ですから、みなさん命を守る活動で精一杯といった感じだったのですね。そんな状況を踏まえると「アートのワークショップは、まだちょっと難しいかな…」という気持ちも心の片隅にはありました。
ただ私が七尾市をよく知っていたという背景もあり、ワークショップの開催には比較的スムーズにこぎつけたと思います。ちなみに私は2023年の12月まで、七尾市で美術教室をやっていたんですね。いったん区切りをつけて、お別れ会までしてもらった時に震災が起こりました。
坂野 七尾市のみなさんと村住さんの間に、これまでの関係性が構築されていたので大変助かりました。知らない人が来ていきなり…… というのは被災後すぐの状況、しかも保守的な能登では難しかったと思われますから。
菊 あのときは石川県民だけではなくて、日本中の方々が何かしたい、できることで支援したいと思ってくださっていました。ただいろいろな条件が重なっていて、それを実行に移すのがとても難しい状況でした。私たちは石川にいて、できることを見つけられる立場にあったので、動き出せたというのもあります。

思い切り散らかしても大丈夫! 「大きなもの」をつくりたい子どもたちにとって、ダンボールは大好きな工作材料に
道路が寸断されて、水道もまだ復旧していないような環境で、心が落ち着かない子どもたちも多かったのではないでしょうか。
坂野 支援を必要としている子どもたちは、避難所での集団生活が難しい場合があり、それにより大きな不安やストレスを、抱えざるを得ない立場にあります。ですからそんな子どもたちをまず支援できたことは、とても幸運だったと言えるでしょう。
村住 子どもたちは、毎日明るく元気に遊んではいるのですが、やはりお父さんお母さんが大変な思いをされているのを敏感に察知していたと思うんですよね。七尾市は観光都市であるため、ホテルや旅館で働いている方も多く、勤務先が被災していたらどうしても不安が大きくなってしまいます。
それらの不安を心の奥に押し込めず、消化して、糧となるように変えていくには、やはり想像力が必要だなと感じました。
菊 そのため村住さんは、想像力を育むためのサポートを何より大切にしました。どんなものでもいい、つくりたいものをつくってごらん。なんならつくらなくてもいいし、完成したものを評価したりもしない。村住さんは、とにかく「好きにやってごらん」という雰囲気を大切にしてくれましたね。
「好きにやっていいんだ」という空気をつくるうえで、工夫されたことはありますか?
村住 子どもたちが非日常を感じてワクワクするのは、今までやったことがないような目新しいこと、とてつもなく大きなものをつくることだと思うんです。
たとえば支援品として送られてきたダンボール製のベッドを使い、みんなで大きな何かを作っちゃおう!というワークショップもやりました。本来の使い方ではなく、ちょっと叱られそうな内容ではあるのですが、子どもたちはそういう“普段できないこと”がやっぱり大好きなんです。まさに、非日常の時間にぴったりの工作材料でしたね。

ダンボール製のベッドを前に、想像力を自由に膨らます子どもたち。ワークショップでは「普段できないことを思い切り楽しんでもらう」を何より大切にしました
確かに大きなダンボールには、ワクワクさせられますよね。
村住 はい。子どもたちはすごく好きになってくれたようで、行くたびに「今日はどのくらい、ダンボールを持ってきた?」と聞かれるようになりました。
ほかには工業用の大きなビニールチューブを持っていって、その中に風を送り込み、大きな風船の中に入るような遊びもしていましたね。遊園地にあるエアー遊具のような感じで、とても盛り上がるんです。
ちなみに水が使えないこともあり、絵の具や粘土などは避けて、手が汚れない工作系のものを中心にプログラムを組んでいました。
一人ひとりが制作に向き合うのではなく、みんなで楽しむプログラムがメインだったのですね。
村住 1年目の2024年はそうでした。2年目の2025年はみんなで遊べるもの、ひとりで集中して取り組めるものと両方用意しています。とにかくワークショップの時間を、思い切り楽しんでほしいと考えました。
菊 村住さんの柔軟さ、きっちり決め込まない感覚もワークショップをいい方向に導いてくれたように思います。子どもと一緒に遊びすぎて、叱られちゃったこともありましたけど(笑)。
村住 おっしゃるとおり、楽しみすぎてしまって。その際はご迷惑をおかけしました!まあ、震災前に開催していた美術教室では「今日はこれをやります」と、きっちり決めていたんですけどね。でも、もっと柔軟でいいんだと、子どもたちのおかげで学べました。

ワークショップの開催から1年を経て、「みんなで楽しむ」から「みんなの時間も、ひとりの時間も楽しむ」に変化していきました
今後、万が一、どこかのまちで同じような状況が起こってしまったときのために、アドバイスというか、みなさんがあらためて今、考えていらっしゃることを教えてください。
坂野 「被災された方や地域を支援したい」という気持ちは、本当に尊いものです。ただ、受け入れる側、支援される側が、それどころではない場合もあります。ですから、被災地に何か協力してもらうものではなく、自己完結できるプログラムを考えることが大切なのだなと、今回、実感できましたね。
菊 実は被災者の方が、「ボランティア疲れ」をしているパターンもあるんですよね。うれしい反面、受け入れ態勢を整えることが負担になったりもします。今回は、ワークショップの経験も豊富で、地域の特性をよく知っている村住さんに支援をお願いできたことが、とても良かったです。ただ地域やタイミングによって、状況はいろいろだと思いますので、その時々のベストを選択していくとよいのかなと思います。今後は支援される側と支援する側が、お互いどのように動けば、より的確な支援につながっていくのかを考えていきたいと思います。そしてやはり、普段からいろんな人と愚痴をこぼしたり、ときには馬鹿をやってしまったりしながら、関係性をつくっておくことも大切ですね。
村住 坂野さん、菊さんは、現場の情報把握が難しいなか、それでもニーズを把握して、動ける人…つまり私をすぐに派遣し、サポートしてくれました。通常であれば企画書を作るステップもあったでしょうけど、今回はすべてが計画通りにいく状況ではありませんでした。「子どもたちが非日常の時間を楽しく過ごす」をテーマに、ひとまずワークショップをやってみて、内容は後で教えてくれたらいいからとお二人は言ってくれました。そんなところも、私としてはとても動きやすく、結果として子どもたちが思い切り楽しめる時間がつくれたと思います。
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今回の被災地支援アートワークショップは、計り知れないご苦労があったかと思いますが、たくさんの気づき・学びのご共有をしていただきありがとうございました!
2026年1月
取材・文:西村里美(H&Her.)

坂野 健一郎(さかの けんいちろう)
東海・北陸ブロック広域センター
新潟県佐渡市出身。なんとなく福祉の道を目指し2006年に(福)新潟県社会福祉協議会に入職。主に地域福祉部門に配属され、ボランティア活動の推進や市町村社協との協働事業、生活困窮者自立支援事業などを担当する。2017年1月に(福)みんなでいきるに入職。広報・採用担当になるはずが2017年6月より現職。東海・北陸ブロック8県において障害のある方の表現活動の推進を図っている。最近は表現活動とケアとの相関や教育分野との連携に興味をもっている。

菊 義典(きく よしのり)
文化・芸術活動支援センター かける センター長
大阪府出身。転勤で石川県に来たことをきっかけに福祉のボランティアへ初めて参加しました。そのご縁から、2004年にNPO法人地域支援センターポレポレに入職しました。 創作活動を通じた支援に携わるなかで、「もっと多くの方に作品を観てほしい、知ってほしい」という思いが強まり、展示会の開催やオリジナル商品の開発に取り組んできました。 2019年度からは石川県の委託事業として「文化・芸術活動支援センターかける」を立ち上げ、県内の福祉事業所スタッフを対象に、相談支援、機会創出、研修などを実施しています。 現在は、展示会をより身近に楽しんでいただけるよう、コンパクトな形で県内を巡回する「かけるキャラバン」の準備を進めています。

村住 知也(むらずみ ともや)
アーティスト
1998年 金沢美術工芸大学油画専攻を卒業。福祉施設で美術教室を行なっている。文化・芸術活動支援センター「かける」、「アートレンタルいしかわ」のアートアドバイザーのほか、未就学児を対象にした創作活動支援事業「子どもアート工房」の講師を務める。