令和7年度全国連絡会議 実施レポート
全国の都道府県の支援センター、広域センター等が集まり意見交換
障害のある人の芸術文化活動を支援し、自立・社会参加を促す厚生労働省「障害者芸術文化活動普及支援事業」では、2025年11月21日(木)に全国連絡会議を実施しました。
全国連絡会議は、障害者芸術文化活動普及支援事業で全国に設置を進めている障害者芸術文化活動支援センター(以下「支援センター」)、広域センター、行政担当者らが集まり、シンポジウムや交流会などを実施し、障害福祉と芸術文化に関する知見を深めるために毎年行われています。
今年度は、「ながさきピース文化祭2025(第40回国民文化祭・第25回全国障害者芸術・文化祭)」が開催される長崎県の出島メッセ長崎を会場に実施しました。

会場となった出島メッセ長崎
シンポジウムのようす
全国連絡会議の一環で開催するシンポジウムは、「障害者による芸術文化活動を支える取組~文化施設・美術館との連携から考える」というテーマで行われました。(進行:大澤寅雄 連携事務局/NPO法人アートNPOリンク)
九州ブロック内での支援センターと文化施設が連携する実践についての事例紹介を行い、今後の展望について議論を深めていきました。
まずは青井 美保(高鍋町美術館)さん、岩切 明日香(宮崎県障がい者芸術文化支援センター)さんが、実践の紹介をしました。

左:岩切 明日香さん 右:青井 美保さん
高鍋町美術館は、江戸時代から教育の藩といわれた高鍋町(宮崎県)にある美術館です。
ホームページに掲げられた「使命」のひとつに、「多様性を受け入れ交流を生み出す(子どもが訪れ、芸術家の卵が初めて出品し、障がいのある方もためらいなく来館できる)」というステートメントがあります。宮崎県障がい者文化芸術支援センターと連携し、視覚障害者のための対話型アート鑑賞会を開催するなど、アクセシビリティ向上の取り組みを実施してきました。

視覚障害者との鑑賞ツアーでオノマトペ(擬音語)を使って伝える取り組みを紹介。
きっかけになったのは、作品展に視覚障害のある人が来場したことでした。「対話型鑑賞ガイド」を視覚障害のある人と一緒に作ったり、触図をつかった作品鑑賞を試みたりと、試行錯誤。鑑賞会をきっかけに、県西地域の点字図書館や美術館などの文化施設や人との新しいつながりが生まれたそうです。
また、岩切さんの「行ってみよう!」の一声をきっかけに、青井さんが障害のある子どもを育てる親の会を訪ねた際に、「うちの子、美術館に行っていいんですかね?」という素朴な質問がありました。美術館に行きづらいと感じる親子の多さに驚き、「親子の気になる?!美術館」を実施。「パニックになったときに少し休める場所があるといい」「隙間があると入りたくなるのでふさいでほしい」など実際に挙がった声をもとに、みんなが利用しやすい美術館づくりに活かしています。

「親子の気になる?!美術館」の実践の様子。実際にやってみることで気づくことがある、と青井さん。
続いて、添嶋 麻里(アクロス福岡)さんと樋口 龍二(九州障害者アートサポートセンター)さんが連携して行う「文化と福祉のマッチング事業」についての事例紹介が行われました。

左:添嶋 麻里さん 右:樋口 龍二さん
福岡県の文化振興条例をきっかけに、社会包摂に意識的に取り組むことになったアクロス福岡ですが、「演劇に字幕をつければいいのでは」と思ってやってみたところ、漢字を入れると読みにくい…ということに気づきます。知識や人脈の不足を感じ、九州障害者アートサポートセンターとの連携を開始。

やってみてうまくいかなかったことも、のちの活動へのヒントに。
九州各地で文化施設関係者を対象に、実際に文化施設を巡り、気づきを共有し合う「現場体験ワークショップ」などを行っています。また、障害のある子どもを対象にした劇場体験プログラム「劇場って楽しい!!」では、実施後にスタッフで振り返りを丁寧に行い、みんなが楽しめる場をつくっています。文化施設側からすると新たなお客様開拓になり、障害のある人にとっては出かける先が増えたという意義を感じたとのことです。
どちらの事例も、まずは自分が一歩動いてみること、障害のある人の感じ方に向き合いながら試行錯誤していくことが共通点としてあるようです。「これをしておけば大丈夫」「これが正解」と決めつけずに、模索する姿勢がありました。また、周囲と連携し、楽しみながら実践する姿も印象的でした。

ディスカッションでは、それぞれの活動の核となるものを探りました。(ファシリテーター:大澤寅雄さん)
登壇者による座談会では、高鍋町美術館の使命のように「言語化」することや、異なる立場の人たちがわかりあえる言葉を「翻訳」するように選ぶこと、モヤモヤしている気持ちをまず伝えてみることなど、言葉にまつわる意見が交換されました。
交流会

各グループで交流。
その後の交流会では、5〜6人ほどのグループに分かれ、それぞれが抱えている悩みや解決策などが話されました。地域が違っても、抱えている課題は似ていることがあります。日々感じているモヤモヤや悩みを言語化することの難しさ。「わかる!」という共感や、工夫のシェアが行われました。
「ながさきピースアート展」鑑賞

色とりどりの作品が一挙にあつまった、ながさきピースアート展
交流会後は、長崎県立美術館での「ながさきピースアート展」の鑑賞を行いました。長崎県在住の障害のある人が制作した絵画、書、手工芸作品を中心に、県展の入選作品等も合わせ約400点のアート作品が展示されています。
会場には、キュレーターの中津川浩章さんの言葉が掲げてあり、「表現することは自己との対話、そして他者とのダイアローグでもあり、豊かに生きるために水や空気のように大切なもの」として、共生社会の在り方を思い描く契機になれば、との想いが書かれていました。作品は、書道や立体作品などバラエティに富み、ひとつひとつの作品に表現する喜びや楽しさが溢れており、観る人の心をほぐします。ところどころで、真摯に作品を見つめる姿や、作品を見て語り合う姿が見られました。
成果
各地域での試みや成功例などの情報を共有することで、支援センターと文化施設との連携について学びが深まりました。また、交流会では支援センター同士で悩みやノウハウの共有ができ、活動のヒントを得られる機会になりました。
シンポジウム登壇者プロフィール
添嶋 麻里(そえじま・まり)/公益財団法人アクロス福岡 事業部 事業グループ 芸術文化チーム ディレクター
2012年公益財団法人アクロス福岡に入職。音楽事業に加え、子ども向け、育成事業、アウトリーチ等の製作運営業務に携わる。2020年4月に福岡県文化芸術振興条例が施行されたのをきっかけに社会包摂事業を模索。2021年に福祉×芸術 九州ネットワーク会議に参画し、社会包摂について座学と実践を通して学ぶ。2022年より当館が継承し、企画運営を行っている。
アクロス福岡
樋口 龍二(ひぐち・りゅうじ)/九州障害者アートサポートセンター
2007年に「NPO法人まる」設立と同時に代表理事就任。2015年「(株)ふくしごと」、2018年「九州障害者アートサポートセンター」、2000年に「FACT(福岡県障がい者芸術文化活動支援センター)を設立し、九州/福岡を中心に、障害のある人たちの表現を社会にアウトプットする企画運営や、表現活動をサポートする人材育成としてセミナーやワークショップ等も各地で開催。
九州障害者アートサポートセンター
青井 美保(あおい・みほ)/高鍋町美術館 学芸員
1982年生まれ。高鍋町美術館美術館(宮崎県)学芸員。宮崎県立美術館、みやざきアートセンターを経て、2015年より現職。宮崎の郷土作家についての調査・研究に取り組んでいる。「パラレル・トラベル」(2019年)、「加藤正回顧展 発光と残像」(2022年)、シリーズ企画「宮崎アーティストファイル」(2015~2025年)などを担当。
高鍋町美術館
岩切 明日香(いわきり・あすか)/宮崎県障がい者芸術文化支援センター
2019年11月より、宮崎県障がい者芸術文化支援センター(アートステーションどんこや内)の芸術活動支援員として勤務。その人の表現を通して、その場所で生き生き輝く現場を作りたいと日々走り回る。自身もアート活動を行い、ヨーロッパや日本で子どもと関わる経験もあり。
宮崎県障がい者芸術文化支援センター
大澤 寅雄(おおさわ・とらお)/連携事務局(アートNPOリンク)
NPO法人アートNPOリンク理事長、文化コモンズ研究所代表・主任研究員。2003年文化庁新進芸術家海外留学制度により、アメリカ・シアトル近郊で劇場運営の研修を行う。帰国後、NPO法人STスポット横浜の理事および事務局長、東京大学文化資源学公開講座「市民社会再生」運営委員、ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室主任研究員を経て現職。
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シンポジウムの記録動画については、以下のリンクよりご覧いただくことができます。
シンポジウム「障害者による芸術文化活動を支える取組~文化施設・美術館との連携から考える」
https://arts.mhlw.go.jp/info/20260122-14520.html
※視聴期間:2026年3月31日まで
※日本語字幕つき
取材・文 渡邊めぐみ(連携事務局)
シンポジウム写真:森勇馬
ながさきピースアート展写真:連携事務局
公開日:2026年2月