厚生労働省|障害者芸術文化活動普及支援事業

厚生労働省障害者芸術文化活動普及支援事業連携事務局

取組コラム

地域を超えた連携が生んだ、新しい可能性の数々。青森で行われた「コミュニティダンス」のようす (北海道・北東北ブロック、愛知県、青森県)

厚生労働省の「障害者芸術文化活動普及支援事業」では、障害者の芸術文化活動に対して、より身近な拠点で支援が受けられるよう、また、各地の支援センターをサポートするため、「ブロック」という活動エリアごとに広域センターがある。

今回、北海道・北東北ブロック広域センターと愛知県の支援センターが地域を超えて連携し、青森県で身体表現のワークショップ「踊れちゃう!?コミュニティダンス体験」を2025年11月15日(土)に実施した。場所は青森県立美術館。

コミュニティダンス (Community Dance) とは、年齢、経験、能力、背景に関係なく、すべての人が参加できるダンス活動のこと。一人ひとりの個性を大切にしながら、みんなでダンスをつくることを大事にしている。講師はオーストラリア在住のクレア・アペルトClare Apelt氏。

このダイナミックな連携は、さまざまな可能性の種まきとなったようだ。北海道・北東北ブロック広域センター・アールブリュット推進センターGently(ジェントリー)大友恵理(おおとも・えり)さん、金野侑(こんの・ゆう)さん、あしょげぶセンター(愛知県障害者芸術文化活動支援センター)の山口光(やまぐち・ひかる)さん、そして青森アール・ブリュットサポートセンター(AASC)の一戸迪子(いちのへ・みちこ)さんにお話を伺った。

今回の連携にいたるまでのお話を聞かせていただけますか?

大友 北海道・北東北ブロックでは、身体表現の取り組みが、青森県でなかなか手をつけられていない現状があったので、実施したいと思っていました。
私たちがなにかワークショップをと考えたときに悩むのが、誰に講師をお願いするかということです。ステージ関係の会議に参加した際に、身体表現、舞台芸術の実績があるのを拝見していたので、次年度の事業計画を作るタイミングで相談したのが最初のきっかけですね。

山口 青森県内で講師やアーティストを見つけられるといいかなと初めは思ったのですが、何度も通えるわけじゃないのでそれは断念し、これまでお付き合いのあったアーティストであるクレアさんを紹介しました。
彼女とは2016年の芸術祭をきっかけにずっと連携していて、ファシリテーションを目の当たりにしてきました。高齢者や障害のある人、外国人などとのワークショップを実施する姿を見て、どんな所でも、誰とでもできるという信頼はありました。

多様な参加者が集まった当日

実際やってみるとなって、どのように受け止められましたか。

一戸 全く未経験なので、まずはどんなものか知りたいなっていう気持ちが一番強かったです。青森ではダンスやパフォーマンスに苦手意識のある人が多く、私達自身もパフォーミングアートにほとんど関わらずに来たので、どんな感じになるんだろうっていうのが正直なところでした。

やってみてどうでしたか。

一戸 新しい発見がたくさんあったんですが、まずはすごく楽しめました。知らないからやらないだけで、知ればやれるなと実感しました。美術の制作もそうですが、続けていくことでやりやすくなるというか、「自分の表現方法の一つ」にしやすくなると思います。パフォーマンスに関しても、見てインプットする機会がたくさんあった方がいいと感じました。

ワークショップは、8月に関係者間でオンライン実施、そして11月に支援センターのある五所川原市の事業所と一般の参加者を対象に青森県立美術館で実施されましたね。どうでしたか?

一戸 オンラインでやったときに何となく雰囲気が伝わったのと、実際の場ではクレアさんが楽しいツールを持ってきてくれていて。たとえば、伸縮性のある布にみんなで包まれて表現するとか。輪になってみんなで顔を合わせてやるっていうのが楽しい雰囲気になりやすかったです。安心してパフォーマンスできる空間にしていただいたと思います。

布を使うと、だんだん体がほぐれてくる

山口 参加者のみなさんにとって、こういった取り組みが本当に初めてなのだということは、クレアさんによく伝えていました。みなさんが参加しやすい工夫として、たとえば、まず参加者それぞれの好きな音楽を事前に聞いておいて、その曲がワークショップ中に出てくるんです。そうすると、自然に体が動いて、場が和みましたね。クレアさんの使用言語は英語でしたが、言葉の問題じゃなく、感覚的に繋がれる感じがしました。

心で繋がれたからか、振り返りの時間のなかで、スタッフの皆さんも率直に日頃の悩みを話せていたように感じました。難しかったのはどんなところですか。

一戸 障害のある人だけではなく、職員やスタッフも一緒に楽しめるようにしていくにはどうしたらいいかなと思っています。

山口 恥ずかしさもありますし、単発のワークショップでは難しいですよね。やっぱり続けていくことだと思います。何回かやったら、はまる人も出てくると思うんですよね。障害のある人も、支援する人も一緒になって表現できるところまでできたら最高ですよね。

一戸 コミュニティダンスの参加を通じて、なるべくいろんな人に経験してほしいなと感じました。美術の制作活動が向いてない人っていると思うんですよね。でも、「制作活動をやらないならアート活動やらない」となってしまうのはすごくもったいないし、表現の幅を広げるという意味ではパフォーマンスの活動は必要だなと思いました。 就労支援の施設に通う利用者さんたちが、月に一度、ダンスの先生を呼んでレクリエーションをやっていて、この間私も参加してみたんですね。その先生と相談して、徐々に身体表現への取り組みを広げられないかと考えています。

徐々に体が自由に動いていく参加者のみなさん

五所川原市の事業所で事前ワークショップを行った時は、ワークショップに参加はしなかったものの、ドアの外で踊っていた方がいましたね。みんなとやるのはまだ難しいけど、体を動かすのが好きな人もいるのかもしれません。

一戸 そういう人に対しては、どのようにアプローチしたらいいでしょうか。

大友 診療所の音楽活動の事例ですが、ある人が参加せず遠巻きに見ていて、回を重ねるにつれてだんだん距離が近くなっていって、最後に勇気がでて参加しはじめたようです。その人の気持ちを大事にしつつ、ずっと続けていくことで、だんだんその人も輪の中に入ってくる可能性はありますよね。

山口 誰も見ない環境で、1人で踊ってもいいと思うし、この人ならと思えるスタッフと一緒に踊ってみるとかもありですね。ただ、人に踊りを見せたい人もいれば、自分が感じていることを表出したいという人もいるから、本人の気持ちは大事にした方がいいと思います。なにかの表現がその人から出てきたなっていうときによく観察することですね。難しいですけどね。

大友 うちは動画によるオンライン舞台発表会ショウケースをやっていて、人前ではできないけど、画面の前だったらできる人もいて、それぞれですね。

連携することで、こういった相談もできていいですね。あらためて、今回の連携はどうでしたか?

山口 初めての取り組みで、誰にどのように響くのかわからない状態で実施しましたが、遠くから参加してくださった方もいました。参加した人それぞれが何かを持ち帰って、またやりたいなと思ってくれている人もいると思うんですよね。始めるっていうのがまず大事ですね。今回の会場である美術館の方にも、こういった取り組みを知ってもらうことは大きかったと思います。

大友 美術館は、展示でお借りしたことがありましたが、パフォーミングアーツには普段貸していないそうなんです。

金野 こういう使い方もありなんだねっていうのを、美術館側の人たちが思ってくださったようでした。

文化施設との連携にもつながったのですね。

山口 支援センターにとっては、場所の開拓や把握も大事ですよね。いろんなところに種まきができたのではないでしょうか。

後日、講師のクレアさん、山口さんにオンラインでお話をうかがいました。
印象的な参加者はいましたか?

山口 利用者さんの支援という感じで表情が硬く、ダンスに消極的な男性の支援員がいましたが、一緒にダンスをしているうちに、動きがやわらかいことに気づきました。後で聞いたところ、彼は昔、相撲をやっていたというのです。話さなくても、身体の動きで伝わることはあるなと感じました。

山口さんと参加者。言葉を交わさなくても、対話できる。

クレア 身体は正直なんですよね。それから、とても遠いところからワークショップに来てくれた女性もいました。彼女はダンスが好きでしたが、精神障害のためにダンスを続けるのが難しかったのです。ワークショップの中では、コミュニケーションがまったく困難ではなく、とても楽しんでいました。

山口 「誰も知らない中で、言葉も通じなくても、すごく楽しく安心して参加できた」と喜んでおられました。

クレア 「自分は踊れない」と思っている人でも、誰かの動きに応答したり、ミラーリング(鏡のように相手の動きを真似すること)をしているうちに、いつの間にかリズムに揺られます。
考えなくていいんです。「何かを作らなきゃ」とか、「ちゃんとやらなきゃ」と思わなくていい。肩を少し揺らすだけでもいいし、ボディを軽くタップしてみるだけでもいい。
ダンスは何でもありなんです。わたしも、みなさんもバレエダンサーではありませんが、人と一緒に踊ると、たくさんの喜びがあります。人と人を結びつけ、何か自分を超えたものとつながっているような感覚になれます。

青森アール・ブリュットサポートセンターのワークショップで、ミラーリングをする様子。

クレア ワークショップの最後、人数が少なくなったときに、ミラーゲームをしました。ひとりひとりの動きを、みんなが響き返すように真似していく。それがとても美しくて、どこか“神聖”な感じさえありました。人は、ああいうつながりを求めているんだと思います。とても深く、強い結びつきです。

山口 これからも、こういう身体表現のワークショップを実施したり、ファシリテーターを育成したりして、少しずつ広げていきたいですね。

―――

地域を超え、言葉も超えた今回の連携。はじめの一歩が、文化施設との連携や、さまざまな繋がり、表現の幅など大きな可能性を広げていくことがわかりました。また、「こういうときはどうしたら」ということも相談しやすくなったのもよいですね。お話を聞かせていただき、ありがとうございました!

取材・文:連携事務局 渡邊めぐみ
公開日:2026年2月

 

大友恵理(おおとも えり)

北海道・北東北ブロック アールブリュット推進センターGently
福祉とアーツ北海道

社会福祉法人ゆうゆう学芸員。2000年ごろよりフリーランスのキュレーターとして現代美術展やアーティストのサポートに取り組んできた。2005年には横浜市を拠点に非営利団体を立ち上げ、全国のオルタナティブな活動を行う芸術団体のネットワーキングとアーカイブに取り組み、シンポジウムなどを多数開催。2014年札幌国際芸術祭の仕事をきっかけに札幌へ移住。2018年に福祉事業所で創作支援に携わる現代美術家の紹介で社会福祉法人ゆうゆうへ入職し、以後、アールブリュット推進センターGentlyをはじめとする福祉分野における芸術文化に携わっている。

金野侑(こんの ゆう)

北海道・北東北ブロック アールブリュット推進センターGently
福祉とアーツ北海道

2024年 社会福祉法人ゆうゆう入職、芸術文化推進(アールブリュット推進センターGently/福祉とアーツ北海道)及び生活介護事業所よるのにじ担当。今回の「踊れちゃう!?コミュニティダンス体験」をはじめ、主に舞台芸術分野を担当。

一戸迪子(いちのへ みちこ)

青森アール・ブリュットサポートセンター(AASC)

京都嵯峨芸術大学短期大学部を卒業後、京都での生活を経て青森にUターン。その後、保育士・幼稚園教諭資格を取得し、社会福祉法人あーるどに勤務。法人内コミュニティギャラリーの展示や表現活動の支援に携わる。令和6年度より青森アール・ブリュットサポートセンタースタッフとして活動している。

山口光(やまぐち・ひかる)

あしょげぶセンター(愛知県障害者芸術文化活動支援センター)

あしょげぶセンター(愛知県障害者芸術文化活動支援センター)センター長、認定NPO法人ポパイ事務局・パフォーミングアーツ担当、歌手、パフォーマー。主に障がいのある人とのパフォーマンスやそのサポート、他団体や地域と連携したアートプロジェクトのオーガナイズを行なっている。職場の外では、ちいさなひとたちに音楽を届ける音楽ユニットクジララのうた担当をはじめバンド等のボーカルを務め、ミュージシャン、ダンサーなど様々なアーティストとの共演も多数。

Clare Apelt(クレア・アペルト)

オーストラリア、ブリスベン在住。ダンスセラピスト、地域文化開発の実践者として、子供、若者、成人、高齢者など、多様な人々やニーズを持つ人々と活動してきている。クイーンズランド工科大学(QUT)演劇芸術学士、M.I.E.C.A.T.Inc. クリエイティブアートセラピー修士、テンセグリティトレーニングによる臨床身体感覚療法およびダンスムーブメントセラピー上級資格を保有。オーストラリアダンスムーブメントセラピー協会(DTAA)のプロフェッショナル会員。

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