家族インタビューから、障害のある作家の歩みと家族の愛が見えてくる―ART(s)さいほく(埼玉県)
アート活動と日常生活を支えるために
2024年から、埼玉県の障害者芸術文化活動支援センター(以下、支援センター)ART(s)さいほくは、「障害のある人たちのアートの魅力を知る研修会」を実施している。具体的には、障害のある作家の身近な人たち、主にご家族へのインタビュー動画の記録を2024年度からはじめた。今回はなぜ、ご家族へのインタビューをしようと思い立ったのか、そしてインタビューをすることで何が見えてきたのか、福祉事業所の生活支援員でもあるART(s)さいほくの石平 裕一(いしだいら・ゆういち)さんに聞いた。

左奥がART(s)さいほく事務局の石平さん。手前は、ご家族がインタビューを受けたコバヤシカオルさん
すてきな事務所ですね。まずは、ART(s)さいほくについて教えてもらえますか。
石平 支援センター「ART(s)さいほく」の事務局は、元々フランス料理店だった場所をお借りしています。障害のある人たちが日中に利用する福祉事業所としても機能しており、建物内には「まちこうば GROOVIN’」があります。アートを制作するアトリエであり、ギャラリーも併設している場所です。
GROOVIN’を利用しているのは、毎日通っている方だけではありません。夕方ふらりと現れる方がいたり、引きこもりの方がちょっと相談に来たりと、いろいろです。地域の方が気軽に立ち寄れるような、オープンスペースでもあります。
誰もがすぐになじめるような温かな雰囲気ですね。さて、今回、障害のある作家の方々のご家族にインタビューをしようと思い立ったきっかけを教えてください。
石平 きっかけは3つあります。1つ目はシンプルに「作家さんのご家族の話を聞いてみたい」「作家さんの今だけでなく過去のことも知りたい」と、ずっと思っていたからです。
というのも、最近、ご家族から「作品の搬入・搬出を手伝ってほしい」と相談されることが増えてきたんですね。ご家族も高齢化されていて、作品を会場まで持っていけないという悩みをお持ちなのです。
そうしたお手伝いをするうちに、ご家族からたくさんの話を聞くようになりました。作家さんが生まれた時のこと、子ども時代のこと、作品をつくりはじめた時の様子などなど。楽しい話、苦労話と、いろんな話を聞かせていただきましたね。
ただ未来の話となるとご家族からは「自分はもう歳だから、これからどうしよう」「自分たちがいなくなった後、子どもは作品づくりを続けられるのかな」といった話も出てきました。
だったら「お元気なうちに話してほしい」「もっともっと聞きたい」という想いが、私たちの中で大きくなっていったんです。

GROOVIN’はアトリエでもあり、ギャラリー&ショップでもあります。画像はコバヤシカオルさんの作品展の様子
今のうちに聞いておかなければという気持ちからインタビューを始めたのですね。ほかのきっかけも聞かせてください。
石平 はい。こういう仕事をしていると「アートの才能が花開いたのは、石平さんたちのおかげ」「いつも頑張ってくれてありがとう」といった言葉をかけてもらえるんです。
それはすごく嬉しいのですが、よくよくご家族の話を聞いていると、私たちと出会う前にも学校などの図工の授業での経験があったり、アートを教えてくれる先生がいたり。また、ご家族がよい環境を準備してくれたり、作家さん本人の好きなことや遊びの中から生まれたものがあったり。
作家さんが今に至るまでには、私たちが知らない様々な人たちとの関わりや、暮らしの歴史があったのだと分かりました。そういったことからも、作家さんのルーツや今に至る歩みを知っておいた方がいいと思えてきたんです。これが2つ目のきっかけです。
そして、私たちの今の活動も、そういうつながりの中にあることを、しっかり意識していないといけないように思っています。
3つ目は、福祉事業所の職員が入れ替わった時に、作家さんがいつからどのように作品づくりをしていたのか、分からなくなることがあるからです。ご家族から作家さんや作品についてお聞きし、記録していく必要があると考えました。担当職員がいなくなったらアート活動ができなくなってしまった、ということもありますので。
最初にインタビューしたのは、埼玉県在住の鉄道画家・福島 尚(ふくしま ひさし)さんのご家族とお聞きしています。
石平 はい、そうですね。福島さんは写真のように精緻な鉄道の絵を描かれる作家さんで、広く知られた方です。ただ、ご家族のお話の記録はまだありませんし、福島さんのご両親もご高齢で、話をお聞きできるなら“今”といった印象でした。
福島さんご自身はGROOVIN’の利用者ではありませんが、私たちが福島さんの作品の搬入・搬出のお手伝いする機会があり、ご家族とも会話をさせていただくようになって、2025年にインタビューをお願いすることになりました。

福島 尚(ふくしまひさし)さん。1969年生まれ。幼少期から大好きだった鉄道を描き続けています
実際にインタビューされてみて、いかがでしたか?
石平 福島さんが幼い頃、自閉症であると分かった時の心情も話してくれましたし、将来を心配するあまり「絵ばっかり描いていちゃダメだ」と絵をやめさせたことがあったとも教えてくださいました。絵を捨てたり、燃やしたりしたら、福島さんはパニックになったそうです。
ご家族には、そんな気持ちの揺れまでしっかり話していただき、とても感謝しています。そして、今でもやっぱり、ご家族の気持ちは揺れているのだなとも感じ取れました。何歳になってもいろんな迷いを抱えられている。そのお話もすごく心に残っています。
また、福島さんのご両親は現在80代になられていますので、今後のことをすごく心配されています。福島さんご本人のことはもちろん、サイズの大きな作品の預かり場所をどうしようとか、いつか自分たちがいなくなった後も息子が絵を描き続けられるのだろうかとか。
これらは、福祉事業所の職員としても、私たちがこれから向き合っていく課題だろうなと思います。ご家族も私たちも、作家さんがずっと楽しくアートで表現活動ができたらいいと願っていますし、それができる環境づくりを望んでいます。

福島さんのお父さん。80代となられた現在も、福島さんの活動を現役でサポートされています
そのほかにも今回、ご家族へのインタビューをしたからこそ、感じられたことはありますか?
石平 これまでインタビューしたのは2組で、前述の福島 尚さん、そしてGROOVIN’の利用者でもあるコバヤシカオルさんのご家族です。そのなかで福島さんもカオルさんも「好きなものを、ずっと好きでいられる」ことが、本当にすごいなと感じました。
福島さんは 5歳ぐらいの時に電車に興味を持って、電車の絵を描き始めたそうです。そして現在の年齢は、50代半ばです。つまり50年間ずっと、電車を描き続けているんですね。カオルさんもかれこれ45年くらい、映画やレコードジャケット、TVCMを題材にした絵を描き続けています。それだけ年数続けていると知識も深まるし、技術もどんどん上がっていますよ。
でも、本人たちは意外とひょうひょうとしていて、日々のルーティーンのように描いています。「家に帰って、ごはんを食べて、眠たくなるまで描こう」のようなペースです。続けようとすごく努力しているわけではないところが興味深いし、おもしろい。ほんとに好きなんですよね。

福島さんのお母さんも、今後、福島さんがずっと絵を描き続けられることを願っています
石平 また、ご家族の話を聞いて、福島さんやカオルさんの好きなことをより深く理解したら、彼らのいつもの行動が腑に落ちたこともありました。それはアートと関わっていない利用者さんたちにも当てはまるんだろうなと思います。
たとえば事業所の利用者さんが、急にどこかに行ってしまうことがあるんです。そんな時、危ないからやめさせなきゃではなくて、きっと「何か」に興味を持ったから走っていっちゃったのだろうと考えるようになりました。「もしかして道路に興味があるのかも」「看板が気になったのかも」みたいな話を、職員同士で日常的にできるようになりたいです。利用者さんの好きなことを深く理解することは、普段の支援にも活きてくるんだと実感できました。

コバヤシカオルさん。1975年生まれで、GROOVIN’の利用者です。レコードジャケットや映画のポスター、テレビCMなど、題材は“自分の好きなこと”
石平 あとは、僕も含めてこういった支援に携わる人は、「聞くセンス」みたいなものを、持っているといいですね。ご家族の話をじっくり聞くことで、すごく深い話、興味深いエピソードがいっぱい出てきました。そういう話を面白がって聞く姿勢を持っていたいですし、持っていたほうがより楽しみながら仕事に取り組めると思うのです。
もうひとつ感じたのは、福島さん、カオルさんはもちろん、どの作家さんもものすごく家族に愛されているのだろうなということです。愛されているからこそ作品づくりに協力をしてもらえる。福島さんも、ご家族と電車見物の旅によく行っていたそうです。愛に包まれていたから、今まで作品づくりを続けてこられたんだと実感しました。
作品が素晴らしいのは、もちろん本人の才能です。ただその背景に、ご家族や特別支援学校の先生、福祉施設のサポートがあるからこそ、花開いたのかなと想像しています。

コバヤシさんのご両親も、コバヤシさんの活動のこれからに思いをめぐらせています
これから、作品を見る目が変わりそうです。ご家族へのインタビューは今後も続けられるのでしょうか?
石平 今後も、いろいろなご家族にインタビューをしたいと思っています。でも急に「話を聞かせてください」とお願いするのもどうなのかなと正直、迷っていますね。
福島さんの場合は、作品を運ぶお手伝いなどを通して、ご家族との関わりを持っていました。カオルさんはGROOVIN’の利用者なので、ご家族との関係性もありました。だから深い内容のエピソードを話してくれたのだと思います。これからインタビューを継続していく上では、そういうご家族との関係づくりみたいなこともテーマになりそうですね。

コバヤシさんの作品はポップでカラフル。時には、ほんのりと“毒”を感じる独自の視点も隠れているそう
関係性があるからこそ話せることもありますよね。撮影されたインタビュー動画はどのように活用される予定ですか?
石平 今はまだインタビューするだけで手一杯で。先日、埼玉県障害者アートネットワークTAMAP±◯(タマップ・プラマイゼロ)のミーティングで、10分ほど見ていただきましたが、今後は、動画を限定公開して、研修で使っていただくなどの構想を練っています。
ご家族の話は、障害のあるお子さんのいるご家族同士で共感できるところがとても多いですし、私たち福祉事業所の気持ちとも重なるところが結構あるんです。また、インタビューの内容に賛否があってもいいと思うし、それについて議論するのもいいですよね。
そして、ほかの福祉事業所でも、ご家族のお話を記録しているところがきっとあるでしょうし、私自身もとても興味があります。いろいろな福祉施設や事業所と連携して、何か一緒にやれたらとも思っています。
そうすることで、作家さんや利用者さん、みなさんをサポートするご家族への理解が、私たちのような職員および周囲の人々のなかで、少しずつ深まっていくとうれしいです。
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アート作品は、植物でいうと花や実の部分で、深く味わうためには「根っこ」を見る必要があるのですね。また、その根っこにある愛情や興味関心を知ることで、普段のその人自身の理解にもつながるという話が印象的でした。
取材・文:西村里美(H&Her.)
公開日:2026年3月

石平 裕一(いしだいら ゆういち)
社会福祉法人昴 ART(s)さいほく/まちこうばGROOVIN’
卒業後、社会福祉法人昴に入職。デイセンターウィズ(多機能型事業所)に配属され、日中活動のレクリエーションメニューとしてアート活動を始めました。それまでは障害のある人たちの作品に触れることがなく、活動を続けているうちに利用者さんの表現の面白さなどをどんどん感じるようになりました。埼玉県や他県の作家、作品、またアート活動に取り組んでいる事業所のスタッフ等との交流を重ねて、多くを学びました。 支援センター(特色型)の採択を受け事業を行うにあたっても、その経験がとても活きていると感じます。 障害のある人たちが楽しく表現活動を続けていけるよう、様々な人と協働をしてサポートできればと思っています。