厚生労働省|障害者芸術文化活動普及支援事業

厚生労働省障害者芸術文化活動普及支援事業連携事務局

取組コラム

鳥取県の重要施策「共生社会」実現へ文化芸術活動を入り口に

「障がい者アート活動支援事業補助金」の活用数増加も拍車

坂戸ろう学園(準優勝)

 障害者への理解と共生を推進する「あいサポート運動」は現在、中国地方5県及び長野県、奈良県、和歌山県、愛媛県の9県のほか全国16市6町が取り組んでいる。その発祥の地が鳥取県であり、2009(平成21年)年11月に創設された。2013年10月には、全国に先駆けて「手話言語条例」を制定し、その翌年からスタートした「全国高校生手話パフォーマンス甲子園」も今年2023年で10年目になった。さらに、障害のあるアーティストの作品に特化したオンライン上の美術館「鳥取県立バリアフリー美術館」が、2023年2月にオープン、閲覧者数が半年で1万5000人を超えるなど、当初の目標を早々に達成した。障害者福祉において、鳥取県は先進的な自治体と言えよう。そして鳥取県の障害者芸術文化活動支援センター「あいサポート・アートセンター」にも、全国に先立って実施している取り組みがある。「鳥取県障がい者アート活動支援事業補助金」だ。あいサポート・アートセンターの事務局長・妹尾祐司さん、鳥取県福祉保健部ささえあい福祉局障がい福祉課社会参加推進室の小泉陽一さん、西村あかねさんにお話を伺った。

あいサポート・アートとっとりフェスタの成果が現在に根づく鳥取県

 全国知事会会長も務めた平井伸治鳥取県知事は、自身がボランティア活動の中で手話に関わってきた経験から全国初となる「手話言語条例」を制定するなど、障害福祉に手厚い予算を組み、積極的にさまざまな施策を打ち出してきた。県庁の1階にある観光などの情報スペースで目を引いたのは福祉のコーナーの充実ぶり。たくさんのチラシに混じって、オリジナルの手話ハンドブック2種類も販売されていた。
 オリジナルの手話ハンドブックオリジナルの手話ハンドブック

全国高校生手話パフォーマンス甲子園全国高校生手話パフォーマンス甲子園

 「あいサポート・アートとっとりフェスタ」の愛称で、鳥取県において第14回全国障害者芸術・文化祭(以下「障文祭」)が開催されたのは、2014年のこと。それまで3日間開催が通例だった障文祭を4カ月に規模を拡大し、日韓のろう者と健常者が共に手話演劇を制作・発表したり、障害者アート作品展で海外からの作品を公募したり、健常者もともに参加できるプログラムを準備したりと、新しいアイデアをふんだんに盛り込んだ内容となった。この障文祭を一過性の事業に終わらせず、成果やレガシーを未来に引き継ぎ、鳥取県の障害者の芸術・文化活動をより一層推進していくことを目的に設置されたのが「あいサポート・アートインフォメーションセンター」だ。そして現在「鳥取県障害者による文化芸術活動推進計画」の方針に沿って、障害のある人の文化芸術活動の推進に向けた取り組みをさらに発展させていくため、その文化芸術活動拠点として名称変更、新たなスタートを切った「あいサポート・アートセンター」が障害者芸術文化活動支援センターを担っている。

第14回全国障害者芸術・文化祭の様子第14回全国障害者芸術・文化祭の様子


補助金制度を通して福祉の現場が気づきを得ることが重要

 「鳥取県障がい者アート活動支援事業補助金」がスタートしたのは、2012年のこと。鳥取県に暮らす障害のある方の芸術文化活動の一層の推進を図るため、障害のある方を含むグループ・団体が、作品展への出展や発表会への出演などを目指し、指導を受けながら行うアート活動、または活動内容のレベル向上を目指す取り組みなどを支援する制度になっている。
 幾度かのリニューアルを経て、現在は文化芸術活動促進事業「ベーシック型」、同「ステップアップ型」、個展等開催事業を対象に、2023年度には予算1500万円が「鳥取県障がい者アート活動支援事業補助金」に当てられている。

募集チラシ

募集チラシ

妹尾 『鳥取県障がい者アート活動支援事業補助金』では、鳥取県障害者舞台芸術祭「あいサポート・アートとっとり祭」、鳥取県障害者芸術・文化作品展「あいサポート・アートとっとり展」を目指した日々の活動に使っていただける文化芸術活動促進事業としてベーシック型、ステップアップ型があります。ベーシック型は1件10万円、ステップアップ型は3年程度の計画を立てていただくことを前提に25万円の補助をしています。個展等開催事業はそれぞれの事業所、施設で展覧会やイベントを開催したりするために15万円を補助しています。申請数で見ると2023年度はベーシック型が32件、ステップアップ型が20件、個展等開催事業が45件です。そのうち活動補助金と発表をセットにした申請が7件、団体数では68件になります。『あいサポート・アートとっとり祭』『あいサポート・アートとっとり展』という大きな目標もありますが、各事業所・施設で展示会や発表会をしたり、舞台系だと公民館祭りのような催しに参加して上演したりする取り組みをよくお見かけします。地域芸能を地域と一緒にやる取り組みなども素晴らしいと感じています。


 申請された内容について、もちろん審査はあるものの、「新たに活動を始めたいという団体や継続的に活動をしている団体などが取り組む多くの活動を支援できるよう、予算額を超えない限りで支援を行っている状況」(西村さん)になっている。

 

『あいサポート・アートとっとり祭』 『あいサポート・アートとっとり祭』 

『あいサポート・アートとっとり祭』 

『あいサポート・アートとっとり展』

 あいサポート・アートセンターの事務局長を務め、また一般社団法人「アートスペースからふる」の理事でもある妹尾さんは、鳥取県で障害のある人の文化芸術活動を見つめてきたお一人だ。

妹尾  県には本当に感謝しています。補助金の申請件数も年々増えていますし、この補助金をきっかけに文化芸術活動を開始した事業所・施設もたくさんあります。障害のある人の創作に目を向ける非常にいい機会になっています。

 一方で課題も感じている。

妹尾  人材育成という観点で言えば、まだまだ進んでいない印象はあるんです。外部の講師をお呼びして活動を行うというケースが多いのが現状でしょうか。もちろん補助金自体がそういう目的で用意されているものなので一向に構わないのですが、同時に事業所・福祉施設の職員さん自身が変化していく必要もあると考えています。職員さんのなかには、まだまだ何かやりたいけれど何をどうしたらいいのかとわからないという方も多い。この補助金事業を通して、講師に頼るだけではなく職員さんだけでも活動できるようになることが望ましいと考えており、私たちのフォローも大事です。そしてそのベースになるのはアート活動への理解であり、評価なのかもしれません。実は周囲の評価や注目度のわりに、福祉現場がまだまだ気づいていない。例えば、初めて障害のある人の表現と出会った講師の方々が、そのすごさに驚き、その後に積極的に障害ある人の表現活動に参加することになったりする事例もあるんです。絵画の講師の方が自分にはこんな自由な絵は描けないとしばらく筆を持てなくなったということも起こりましたから」

 

新たに運営事業共同事業体の体制に移行し、さらなる啓発活動を進めていく

 あいサポート・アートセンターでは、相談支援、啓発等を進めるための運営体制を強化するため、2023年より運営事業共同事業体という体制を採用することになった。

 あいサポート・アートセンターの体制は、一般社団法人アートスペースからふるが代表になり、社会福祉法人もみの木福祉会、特定非営利活動法人あかり広場、特定非営利活動法人十人十色、特定非営利活動法人アートピアとっとりが構成員になった。元々あいサポート・アートセンターを運営していた特定非営利活動法人アートピアとっとりと、「鳥取県はーとふるアートギャラリー」*1に認定されている4団体だ。

第1号 第2号

第3号 第4号

鳥取県はーとふるアートギャラリー


妹尾 よく言われることですが、この分野には可能性があると思います。福祉側に立った話をすれば、表現した作品が受賞をしたり、支援者や家族などに認められることによって障害のある方々にも自己肯定感が生まれてくる。そして明らかに成長する様子が見られるようになります。障害の有無にかかわらず色を塗るという行為には落ち着きをもたらす効果があるという研究もあるようですが、さまざまな事業所・施設の方々からも、表現活動を始めたことで、大きな声を発するなどの行為が少なくなった、落ち着きが見られるようになったという話をよく聞きます。また作品を通して他者とのつながりが増えたりもする。一方、アートの側面から言えば、どうしても私たちは社会の常識の中で格好をつけるようなところがあるじゃないですか。ある意味では本能にフィルターをかけてしまっているのかもしれません。知的や精神の障害のある方のなかには、うまく説明はできないけれど、何かすごさ、本能的な魅力を感じさせる表現が生まれてくることがある。本当に驚かされますよ。

 運営事業共同事業体による新体制への移行は、妹尾さんたちが感じているこのことを広く県民に届け、アートを通じた障害への理解を促すこと、障害ある人の自立と社会参加の進めていくことへの大きな役割が期待される。

2023年度の活動から2023年度の活動から 

必要な予算を裏付ける価値の発信も必要に

 冒頭で鳥取県では障害福祉に関する施策が手厚いと書いたが、行政としても、その意義や成果について発信していく、さらに活動への理解を促すことも一つの課題だと考えている。

小泉 文化芸術ですから表現をどう感じるかは見る方それぞれによるものです。だからこそ障害者アートの推進に関する施策を引き続き充実させていくためには、“これだけの高い評価を受けています”、“こんなにたくさんの事例があります”という資料をどんどん出し続けていくことが重要です。意識しながら成果として示せるものを提示していかなければいけません。「あいサポート・アートとっとり祭」「あいサポート・アートとっとり展」にしても、「バリアフリー美術館」にしても取り組んだというだけで、県民の皆様が知らなかった、少数のお客様しか見にこられなかった、ではいけないわけです。文化芸術を入口に、県の重要な施策である共生社会の実現について知っていただき、考えていただくという目的につなげるためにも、その第一歩としてまずはたくさんの県民の皆さんに障害のある方々の表現に出会っていただく機会を創出することが必要です。私たちもこれまで以上に広報や啓発に関する活動を重視して頑張っていかないといけないと考えています。

 体制を強化したあいサポート・アートセンターだけでなく、障害福祉課社会参加推進室でもさらなる広報に力を入れていく意向だ。「あいサポート運動」などベースとなる環境のもと、このように県と支援センターがさらなる強固な連携ができていることで、文化芸術の役割が一層輝き始めている。


「鳥取県はーとふるアートギャラリー」*1
障害のある方の文化芸術作品が多くの人びとの目に触れ、県民が気軽に障害者アートを楽しめるようになるためには、作品の発表の機会・場所を確保することが重要という観点から、積極的に事業を行っているアートギャラリーを県の認定ギャラリーとする制度

取材・文 いまいこういち
公開日:2024年2月

 

妹尾祐司

地元マスコミ、外資系企業を経て、自営業をする傍ら、2018年から妻が代表を務めるアートスペースからふるの渉外担当を務める。一般社団法人設立後は渉外担当の理事。2023年からあいサポート・アートセンター事務局長。

 

小泉陽一

平成13年度入庁。税務課、地域振興課、議会事務局などを経て令和5年7月から現職。障害福祉課は2回目。平成25年4月からの約2年間、平成26度に開催された全国障害者芸術・文化祭とっとり大会の開催準備・大会運営等にも携わる。


 

西村あかね

平成24年度入庁。鳥取県立図書館、体育保健課などを経て令和3年4月から現職。主に「鳥取県障がい者アート活動支援事業補助金」等の補助金業務や『あいサポート・アートとっとり展』に関する業務などを担当している。

関連の取組コラム

文化施設と連携し、地域の未来につながる居場所をつくる(東京都江東区)

「基幹型」「特色型」2つの支援センターの役割とは —官民連携でネットワークを拡充する埼玉県

支援センターの歩みを振り返り、 より個性を生かし、モチベーションを高める活動を支えていく(北海道)

ページのトップへ戻る