厚生労働省|障害者芸術文化活動普及支援事業

厚生労働省障害者芸術文化活動普及支援事業連携事務局

取組コラム

支援センターの歩みを振り返り、 より個性を生かし、モチベーションを高める活動を支えていく(北海道)

北海道・北東北ブロック(北海道、青森県、岩手県、秋田県)を担当する広域センター、アールブリュット推進センターGently(ジェントリー)。2022年度、青森県、岩手県の支援センターとは、持続性というテーマを掲げ、それぞれの環境や課題、地域性などを踏まえた独自の活動に伴走するという方向性を見出してきた。一方、支援センターの開設を目指す北海道、秋田県でも、関係者とのネットワークをさらに強化するなど、丁寧な種まきを続けてきた。これまでの道のりを振り返り、さらに広域センターとしてどうあるべきか、未来の姿は定まってきている。

 

北海道アールブリュットネットワーク協議会は、道内の事業所が障害の種別を超えて連携する活動で評価を得た

 北海道・北東北ブロックの地域性について、アールブリュット推進センターGentlyの事務局を担うおひとり、大友恵理さんに伺うと、開口一番、「とにかく広いんですよ!」という答えが返ってきた。言わずもがな、都道府県の広大な面積のことだ。

「岩手県は北海道に次いで全国で2番目に広いですし、秋田県は5番目、青森県も8番目の広さですから。どのブロックの広域センターさんも移動に関する苦労はあると思いますが、北海道・北東北ブロックの場合は特にまめに会うというコミュニケーションは難しいのです。飛行機代をかけてお会いしにいく、その1回の会議の意味合いがすごく重くなってしまって。対面で集まっての会議自体にコストと時間がかかるために、どうしても出席率が下がってしまう県・支援センターもありました。広域センターのミッションとして、ネットワークの強化もありますから、そこは難しさを感じていました。ところがコロナ禍でオンライン会議が急速に普及したおかげで、かえって会議への出席率が上がったんです。オンラインが私たちに味方してくれた。研修もコロナ禍前より回数を増やせるようになり、雑談も含めた会話が増え、つながりも深まったと感じますし、お互いの状況を把握し合うこともできるようになりました」

ブロック研修の様子

ブロック研修の様子

 この日、取材を受けてくださった大友さんは北海道函館市出身。大学でアートを学ぶために道外に出て、卒業後は神奈川県を拠点にフリーランスでキュレーターをしていた。2014年に札幌国際芸術祭にスタッフとして関わったのを機に故郷に戻った。その後、北海道立帯広美術館でのアールブリュット展を手伝うことに。それは「北海道アールブリュットネットワーク協議会」が調査・発掘した作家の作品を、道内に在住する現代美術作家たちが捉え直し、独自の視点から、「生(き)の芸術」の新たな可能性を探るという企画で、そのディレクションを担当したのだ。

 北海道アールブリュットネットワーク協議会は、障害者芸術文化活動普及支援事業の前段の芸術活動支援モデル事業を契機とした2015年に、道内10の福祉施設で発足し、芸術活動に実績のある福祉法人、全道規模の障害福祉協会、学芸員、大学教員、弁護士らによって設立された。現在は、その事務局を「社会福祉法人ゆうゆう」が担っている。

 モデル事業の際は「北海道アールブリュットネットワーク協議会/アールブリュット推進センターGently」として北海道の障害者芸術活動支援センターへ手を挙げた。このとき、北海道に点在するアート活動に取り組む事業所が障害の種別を超え、連携して事業を推進していこうとする他県にはない体制や挑戦が高く評価された。モデル事業で障害者芸術活動支援センターを担った全国の団体のいくつかは、本事業の開始とともに広域センターに移行したが、Gentlyも北海道・北東北ブロックの広域センターとなった。大友さんがゆうゆうに入職し、Gentlyのスタッフになったのは広域センターとして2年目の2018年で、以来、彼女を含む学芸員2名体制でGentlyを動かしてきた。

「正直、障害のある方々のこと、その作品のことについてほとんど知識がなかったんです。作品をお借りするために皆さんとお会いするなど、徐々に交流ができていきました。創作している人たちのアウトプットは面白いし、共感できる。そして作品を見た人たちのいろいろな反応を見るのも興味深いです。作品にすごく心揺さぶられている姿が印象的ですよね」

 こうした出会いを重ねる一方で、初めて接する福祉業界についても学び、また13 県それぞれの地域性や背景、事業への考え方・進め方が違っている自治体とも少しずつ関係を構築してきた。

「展覧会にしても舞台芸術にしても、アートを学んで入職した私と同僚でその骨格を形づくっていきました。取り扱っていく作家や作品、福祉事業所の情報などは北海道アールブリュットネットワーク協議会の方々に助けてもらっています。協議会の方々には相談支援のアドバイザーとしても協力いただいていて。私自身がようやく事業を俯瞰的に見られるようになったのは3年目くらいからだったように思います」

 そうやって大友さんは、今や福祉とアートに関してハイブリッドな存在になった。

 

北海道、秋田県での種まきに手応え

 広域センターとして6年目、大友さんがスタッフになって5年目となる2022年度、アールブリュット推進センターGentlyの事業は、7月に青森県で『障害者の芸術文化活動フォーラムアートでつながるソーシャルアクション』の開催、9月に秋田県で北海道・北東北にある3つの「支援センター」が活動を通して出会った作品を紹介する展覧会『北海道・北東北の福祉とアート 届けたい 私たちが出会った表現』の開催、10月からYouTubeで舞台作品を発表する「アール・ブリュットショウケース2022オンライン『舞台に上がれ!』」の参加の募集開始し、1月に『舞台に上がれ!』の公開というのが大きな流れだった。

 

 そして、その間に支援センター(道県担当者も参加)を対象にした研修を実施し、北海道と秋田県の担当者とはミーティングを重ねてきた。また秋田県での『北海道・北東北の福祉とアート 届けたい 私たちが出会った表現』の際には、「福祉とアートをめぐる座談会」と題してトークショーを行った

 広域センターとしての日常業務は、青森県や岩手県の支援センターへの伴走と、北海道、秋田県での支援センター開設準備、さらに同地域では相談支援など支援センターとしての役割も含まれている。

「支援センターの主だった役割は、発表の機会の確保、人材育成と相談支援です(令和4年度時点)。特に相談支援については、この2年くらいは北海道と秋田県の支援センターの代わりにチラシを用意し、道や県を通じて配ってもらったり、私たちから施設や法人さんにDMを送ったりしながら「何かあったらうちに連絡ください」ということでやっていました。今年度は月に3人くらいのペースで、チラシを見て電話をくださった方々に対応したり、提案をしたでしょうか」

北海道・北東北の福祉とアート「届けたい 私たちが出会った表現」より

北海道・北東北の福祉とアート「届けたい 私たちが出会った表現」より

北海道・北東北の福祉とアート「届けたい 私たちが出会った表現」より

北海道・北東北の福祉とアート「届けたい 私たちが出会った表現」より

 支援センター開設を目指す北海道では、次のような事業を行っていた。

「北海道には障害の区別なくだれでも応募できる展覧会がなかったので、前年度から始まった『北海道障がい者のアート展 みんなのイマジネーション』を引き続いて実施しました。また3年前に札幌の企業さんからギャラリーで社会貢献できるような展示をしたいとお声がけいただき、私たちの福祉のコンテンツを生かした展示を年6本ほどやっています。希望してくださる道内の福祉事業所が利用者さんの作品を展示するのですが、スケジュールが合わないときは私たちで企画をつくったりもします。いずれも北海道の支援センターの後押しと、多くの皆さんに障害のある人のアートに注目してもらうための企画です」

 こうした事業の際にも、前述の北海道アールブリュットネットワーク協議会の力は欠かせない。メンバーが積極的に公募展・展覧会などに出品してくれたり、情報の周知のために動いてくれているのだ。

「公募展をはじめ、モデル事業のころにはなかった取り組みをいろいろ実施していますが、事業を通して新しい出会いにつながることを心がけています。モデル事業のときのネットワークをさらに更新していく必要がある時期だからです」

「北海道障がい者のアート展」(2022)より

「北海道障がい者のアート展」(2022)より

北海道の福祉とアートVol. 11「カクカクシカジカ ―みんなのカタチ― 展」

NAKAHARA DENKI Free Information Gallery

 また秋田県では、昨年度末にも『障害者の芸術文化活動の支援を考えるセミナー 秋田の福祉とアートを支えるために』を実施するなど、より支援センター開設の機運醸成に務めてきた。

「秋田県は県が主催する『心いきいき芸術・文化祭』がありますし、秋田市でも『はだしのこころ』展という公募展が行われています。相談支援の窓口は広域センターで務めておりましたが、作家さんを紹介してほしいなどの依頼があった場合は、Gentlyの相談支援アドバイザーでもあるのですが、『はだしのこころ』事務局のNPOアートリンクうちのあかり代表の安藤郁子さんに主にご相談し、力になっていただいています。秋田県の場合、以前は福祉とアートのつながりが希薄なところもありましたが、ここ数年の活動で、福祉を中心にさまざまなプレイヤーとつながりができ、いろいろなお話をさせていただけるようになったことで、支援センターへの関心が高まりつつあるように感じています」

 

持続性、そして未来へ

 大友さんたちはこれまでの広域センターの活動、北海道・北東北ブロックの支援センターの活動を振り返る中で、ある課題を持ち始めていた。

「今年度の北海道・北東北ブロックのテーマは持続性でした。全国で支援センターを運営している団体は、皆さん志を持って手を挙げて委託を受けています。しかしいくら支援センターが頑張っても、そこに割ける時間やマンパワーなどの背景の違いもあって、たとえば相談を曜日限定で実施したり、スタッフが別の事業と兼務せざるを得ないという場合があります。無理をしてやっていては活動が続きません。「次年度は受託しない」と支援センターが未設置に逆戻りしてしまうことは避けなければいけません。支援センターが立ち上がったからといって、すぐに自力で走ることはできません。“持続性はそうした危機感から考えたテーマでした。運営団体には福祉分野の方々が多く、イベントや展覧会などまったくやったことのない事業に取り組むわけですから、そこはしっかりお手伝いしないといけません。厚労省の目標はとても高いところにありますが、そこに自分たちのやり方、スピードで向かっていけるように伴走するのが広域センターの役割だと私たちは思っています。そういった意味で継続、持続するためにはどうしたらいいのかを考える年になりました。幸い厚労省は事業の内容については委ねてくださり、自由度もある。少しずつ地域それぞれの背景や支援センターの個性が出て、自分たちのできることを工夫しながらやるという動きに変わりつつあると感じています」

 これは北海道・北東北ブロックに限ったことではないが、支援センターとしてのキャリアを積むことで、それぞれが見出す課題、やり方に個性が出てきていると感じる。

「青森県では美術館にあるような名画や彫刻作品がアートだと考える方が多く、もっと自由な表現があっていいのですよということを発信することに積極的に取り組んでいます。今後は太平洋側(南部地方)から日本海側(津軽地方)までとても広く、それゆえ生活文化も違うのでしょうから、そこをつなぐ協力体制を築く必要性があるように感じています」

「ありのままの表現展2022」より

事業所へ講師を派遣し、創作活動に関する研修や助言する支援者養成巡回プログラム

事業所へ講師を派遣し、創作活動に関する研修や助言する支援者養成巡回プログラム

「岩手県は福祉団体が障害のある人の作品を発表してきた歴史がかなりあって、障害のある人の作品が美術館に収蔵されている例もあります。だからこそ県が掲げる目標は高くもあるのですが、それに自分たちなりのカラーで取り組んでいくという意味で、モチベーションが高まっています」

第30回岩手県障がい者文化芸術祭

創作活動に関する権利保護研修会(知財でポン体験)

障がいのある人の創作活動支援ワークショップアドバイス(講習会)

 大友さんは改めて、広域センターとして今後すべきことを、こんなふうに教えてくれた。

持続性については、これが解決策ですという答え、解決しましたという状況はないと思うのです。私が担当してからだけでも5年が経ちましたから、今の状況を見直してみませんかという意味で、今年度はそれぞれの活動を振り返ることができたと感じています。そのことで今の自分たち、これからの自分たちはどうしていくべきかが見えてきました。広域センターとしては、皆さんがやりたいことに向かって動いていけるよう伴走していくということですね。その上で課題については各支援センターが発見し、計画を考えて取り組んでくださるでしょう。今までとは少し違う形の協力も必要になるかもしれません」

取材・文:いまいこういち
公開日:2023年3月

 

 

大友恵理

社会福祉法人ゆうゆう学芸員。2000年ごろよりフリーランスのキュレーターとして現代美術展やアーティストのサポートに取り組んできた。2005年には横浜市を拠点に非営利団体を立ち上げ、全国のオルタナティブな活動を行う芸術団体のネットワーキングとアーカイブに取り組み、シンポジウムなどを多数開催。2014年札幌国際芸術祭の仕事をきっかけに札幌へ移住。2018年に福祉事業所で創作支援に携わる現代美術家の紹介で社会福祉法人ゆうゆうへ入職し、以後、アールブリュット推進センターGentlyをはじめとする福祉分野における芸術文化に携わっている。

◆アールブリュット推進センター Gently 公式サイト

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