厚生労働省|障害者芸術文化活動普及支援事業

厚生労働省障害者芸術文化活動普及支援事業連携事務局

特集記事

文化と福祉。両者の特性を活かし、社会の見方を変えていく―岐阜県障がい者芸術文化支援センター

文化と福祉の協働の可能性とは?

ギャラリーでのtomoniワークショップNEST展の様子

2017年の障害者芸術文化普及支援事業スタートから全国で続々と開設されてきた支援センター。都道府県やその外郭団体が設置したり、社会福祉法人やアート活動を展開する団体が運営しているところもある。それらの組織体制、ミッション、事業内容も多様だ。そんな中、県の文化、福祉の両部署からサポートを受け、障害福祉と芸術文化の垣根を超えた取組みをしている岐阜県障がい者芸術文化支援センター(TASCぎふ)を紹介したい。TASCぎふの業務総括・土屋明之さん、同職員・二村元子さん、そしてTASCぎふに駐在する岐阜県障害福祉課職員・櫻田智志さんに話を伺った。



障害者支援施設の集積エリアにおける文化芸術

岐阜県障がい者芸術文化支援センター(以後、TASCぎふ)は、岐阜県と公益財団法人岐阜県教育文化財団が、県内の障害者の芸術文化活動の振興を図るため、障害者や福祉サービス事業所などを対象にした障害者芸術文化活動における中核的支援拠点として20187月に開設された。TASCぎふは、岐阜県教育文化財団の一部署であり、ホールやギャラリー、カフェを持つぎふ清流文化プラザを活動の拠点とする。そのぎふ清流文化プラザは障害者を支援する県施設が集まる「ぎふ清流福祉エリア」に位置する。

ぎふ清流福祉エリア地図

ぎふ清流福祉エリアのマップ


二村 ぎふ清流福祉エリアは、岐阜県が障害のある方の福祉、医療、教育、文化芸術、スポーツ及び就労支援の拠点づくりのために整備を進め、10施設があるエリアとして2020年に完成しました。ぎふ清流文化プラザは「ともに、つくる、つたえる、かなえる」をキーワードに、音楽や演劇などの舞台芸術や絵画、造形、文学など、さまざまな芸術文化の分野において、障害の有無に関わらず、ともに新たな創造活動を行っていくことを目的に2015年に開館しました。TASCぎふでは、このエリアにある、ぎふ木遊館、発達障がい者支援センターなどと連携を取り、障害者の文化芸術に関わる事業を進めています。

ぎふ清流文化プラザ外観

ぎふ清流文化プラザの外観

実は、このTASCぎふの成り立ちも興味深い。岐阜県文化創造課が所轄する岐阜県教育文化財団は、県民文化・地域文化の振興を図るためのイベントの実施や支援、健康づくりや生きがいづくりのための推進事業などを活動理念にしている。

櫻田 2017年秋に、髙木敏彦財団理事長が奈良県での国民文化祭/全国障害者芸術・文化祭への視察を行った際に、障害者の芸術活動を推進する福祉施設 たんぽぽの家に伺いました。財団がぎふ清流文化プラザに移転したタイミングであり、障害のある方に向けた事業にも取り組んでいました。この視察と、国の支援センター設立の動きが理事長の中で一致して、「財団で次年度から支援センターをやる」と決断されたそうです。
 
 髙木財団理事長が決断した時期は201710月のこと。県の次年度当初予算の検討が進んでいる時期だったため、当時の文化創造課職員(現・財団事務局長)が関連部局を奔走したとか。とは言え「ぎふ清流文化プラザの前身の岐阜県県民文化ホール未来会館は2010年度末に休館していたのですが、県は再生を模索して、新たな文化の拠点としようとした。また僕ら特別支援学校の教員たちもそういう場が欲しいという声が挙げていた」(土屋)という流れがあり、国の動きと上手くマッチしていた。そして、20187月、TASCぎふが芸術文化支援センターとしてスタートした。高木理事長が視察で感じたことも、事業として実現しているようだ。

バリアフリーコンサートの様子

ぎふ清流文化プラザのホールで実施されたバリアフリーコンサートの様

展覧会の様子

ギャラリーで行われた展覧会の様子

ぎふ清流文化プラザ内のカフェ

ぎふ清流文化プラザ内のカフェ

エントランスでの妖怪アマビエ降臨展

エントランスでも展覧会が行われる

髙木財団理事長 財団の総合的な文化活動の一つとして、福祉的な視点は今後大いに大事になると考えていました。たんぽぽの家の視察では創作の場、ショップ、ギャラリーが印象に残りました。作品を展示するだけでなく、利用するという発想は、それを利用する企業や各種団体とのつながりが財団には多くあり、企業や各種団体、当事者の相互に有効なのではないかと思いました。また、創作の場は、その後のオープンアトリエの開設につながりました。さらに、ぎふ清流文化プラザ内のカフェは障害者の雇用や展示・販売の場となることを想定できました。ぎふ清流文化プラザにあるホールは、財団としての強みでもあることに気づき、障害のある方のコンサートや音楽フェスタを開催しています。


情報共有があるからこそ、文化と福祉の視点が入った事業が実現できる

前述したように「興味深い」のは、行政の縦割りの構造がある中、この「成り立ち」によって県が文化、福祉の両面から積極的なサポートをしていることだ。

櫻田 教育文化財団とぎふ清流文化プラザの所管は文化創造課ですが、障害者の芸術文化活動は障害福祉課が所管します。障害福祉課では「芸術文化」を障害者が社会参加する一つの方法として位置づけ、以前から岐阜県身体障害者福祉協会とともに支援を行なっていました。しかし財団の方から「支援センターをやりたい」という動きが起こり、調整の末、福祉、文化両方の部局が、財団を通じて障害者芸術に関わるようになりました。たとえば、国の補助金申請では、文化庁へは文化創造課が、厚生労働省へは障害福祉課が取りまとめてやっています。

 県からTASCぎふに駐在している櫻田さんは、ある意味、その象徴のような立場だ。地方自治体が外郭団体に職員を派遣するケースはあるが、岐阜県では駐在という方法にしている。TASCぎふの準備段階では文化創造課の職員が、開設以降は障害福祉課の職員が駐在している。櫻田さんは障害福祉課の前は文化伝承課に所属していた。いわば、文化と障害をつなげられる存在だ。

土屋 財団事務局長は文化創造課の派遣職員、櫻田さんは障害福祉課の駐在職員、お二人がTASCぎふに関わっているのは大きい。現場の声を行政に伝えてくれるという意味で、重要な存在です。現場としては、双方に関わってもらっている状況を継続してほしい。

二村 たとえば展覧会を開催する場合でも、福祉的な視点からすれば、作品を通して見える制作者の背景やこだわりなどを含めた広い意味での表現に目を向け、誰もが表現者として取り上げられる機会の平等が求められます。一方、文化的な視点からすれば、作品そのものの価値を示すことも必要になってきます。障害の有無に関わらず、社会の評価を受ける平等。この両方の視点が必要だと感じています。

文化創造課と障害福祉課が関わっていることで、TASCぎふは5つの財源を活用しているというのも幅広い活動を可能にしている。その詳細は下記の通り。令和3年度の事業と合わせて見てみたい。

① 岐阜県(文化創造課)からのぎふ清流文化プラザ指定管理料
➡︎ 鑑賞支援コーディネーター育成講座(知的・発達障がい編)等を開催。
鑑賞支援コーディネーター育成講座の様子

鑑賞支援コーディネーター育成講座の様子


② 岐阜県(文化創造課)からの補助金(tomoni事業費、文化庁補助金[H29~H3]を活用)
➡︎ ぎふ清流文化プラザのホールやギャラリーを活用したコンサート、展覧会を開催。

展覧会の様子

岐阜県文化創造課からの補助金を活用した展覧会「三笑展」の様子


③(センター事業費、厚生労働省補助金を活用)
➡︎ 相談支援、人材育成、作品展、発掘・調査、ネットワークづくりなどを実施。

研修会の様子

岐阜県障害福祉課からの補助金を活用し実施した研修会の様子


④ 岐阜県(障害福祉課)からの補助金(アート事業費、厚生労働省補助金を活用)
➡︎ 芸術家派遣、作品展、tomoniカフェ連携、コーディネーター設置等を実施。

岐阜県障害福祉課の補助金を活用して実施した芸術家派遣事業の様子

 

⑤岐阜県(障害福祉課)からの委託料(サテライト事業費、厚生労働省補助金を活用)
➡︎ 全国障害者芸術・文化祭と連携した「いろんなみんなの展覧会」を開催。

展覧会の様子

「いろんなみんなの展覧会」の様子

 

支援センターの事業の組み立てにおいて文化創造課、障害福祉課のすみ分けがどうなっているか、またその相乗効果を感じることについて聞いた。

二村 明確なすみ分けは困難ですが、ともに共生社会の実現を目指しており、特に文化芸術の振興という視点で、多様な方々が参加する文化芸術活動事業を「tomoniプロジェクト」として文化創造課の予算を活用し、主に芸術活動を通した障害者の社会参加に関わる事業に障害福祉課の予算を活用して実施しています。また、両者が有する情報を共有してもらうことで、文化事業の中に、障害者を含む多様な方々の参加する企画を盛り込んだり、ほかの県有施設の利用や芸術家、芸術団体などとのつながりもスムーズに行われると感じています。

特別支援学校による展示の様子

特別支援学校による展示の様子


よそから見ればうらやましい環境に見えるかもしれないし、文化と福祉の融合はこの事業の理想だ。しかし職員が数年で入れ替わり、いつまでも関われないのが行政の人事制度。櫻田さんはどう感じているのだろう。引用が少し長くなるが、櫻田さんの言葉には行政の立場として縦割りの壁を越えていくための重要なポイントがいくつもある。

櫻田 福祉側からすれば、文化芸術は芸術性よりも社会とつながるためのツールという位置づけです。かたや文化の視点から見ると、作品の芸術性の高さや、その過程における創作環境などを重要視します。障害のある人の全般を見渡したとき、まず裾野を広げたり、生きやすい社会をつくる必要があり、それが浸透した先に、アーティストとして、あるいは生活の一部としての芸術文化活動があると考えます。障害福祉課としては、芸術文化活動を通じた障害者の社会参加という理屈も県民の皆様にも伝わりやすいですが、常に両方の視点を持って、芸術文化の独自性と、障害者の表現の可能性を伝えていくことも重要です。その専門的な部分が行政職員では難しいところです。
 私自身がこれまで生活する中で、身近に障害のある人はおらず、障害について知る機会はテレビなどしかありませんでした。子どものころから障害者と日常的に出会っていれば、障害の有無を気にすることはないと思います。一人の同じ人間として、そもそも障害という言葉でくくる必要もなくなる。例えば、公募美術展を開催するとき、障害者も応募しやすい仕組みになっていれば特別な事業と考える必要はないのです。しかし今の世間は、そうした意識の浸透が必要な時期と捉えています。芸術の好きな方が芸術を通して障害のある方と出会うという意味で、障害者の芸術文化支援をする必要があるように思います。
 私は高校時代にコーラスをやっていたことで、文化活動を通して日常が楽しくなる、豊かになるという実体験があります。そのことを世の中に広めたいという思いで県職員になりました。文化に関わったことがない人からすると、芸術文化は余暇活動、ゆとりがあるからできている、という見方をされることがありますが、その見方を変えていく必要がある。行政のほとんどの仕事が法律で決められたとおりに行わなければなりませんが、芸術文化は自由度のある仕事だと思います。行政職員にとっても「楽しい」は重要なキーワードだと思います。企画する側が楽しめなければ、参加する側も楽しめませんよね。

 他の地域でTASCぎふと同じような体制でやろうとしても、なかなか実現できるものではない。ただ障害福祉と芸術文化の制度の壁に課題を感じている現場の声が多い現状の中、行政、支援センター双方にとっての何かヒントになればと思う。

(文 いまいこういち)
記事制作協力:NPO法人ドネルモ

土屋 明之プロフィールイラスト

土屋 明之

岐阜県障がい者芸術文化支援センター 業務総括
大学で彫刻を学び卒業後、県立特別支援学校、県教育委員会及び中部学院大学短期大学部幼児教育学科で美術造形を通して特別支援教育と幼児教育に携わる。2014年(平成26年)岐阜県芸術文化会議会長に就任。2019年(令和元年)よりTASCぎふの業務総括として様々な障がいのある人たちのアート活動支援を行っている。

 

二村元子プロフィールイラスト

二村 元子

岐阜県障がい者芸術文化支援センター 主任
2014年(平成26年)から財団に関わり、障がい者の展覧会企画などを担当。自身の活動として、約20年前から障がい者との造形活動に関わっている。

 

櫻田智志プロフィールイラスト

櫻田 智志

岐阜県健康福祉部障害福祉課社会参加推進係 主査
1997年(平成9年)岐阜県に行政職として入庁後、高校、美術館、自動車税事務所、防災課、図書館、下水道課、社会教育文化課、文化伝承課、障害福祉課に勤務。また、2003年(平成15年)岐阜県教育文化財団に5年間派遣。仕事の傍ら、合唱やオペラ公演等に出演、舞台スタッフなどボランティア活動に参加。

 

TASCぎふ ウェブサイトhttps://www.tascgifu.com/

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