厚生労働省|障害者芸術文化活動普及支援事業

厚生労働省障害者芸術文化活動普及支援事業連携事務局

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制度のスキマをつなぎなおす広報発信−障害者芸術活動支援センター@宮城(愛称:SOUP)

福祉施設に所属しない人への芸術文化活動支援のあり方とは?

 人口203万人を有する宮城県では、身体、療育、精神の手帳を持つ人はおよそ10万人(令和3年度末時点)。その全ての人が、教育機関や福祉施設とのつながりを持っているとは限らない。社会とのつながりを持たずに暮らしている障害者にとって、芸術文化活動は日常を豊かにするとともに、社会とつながり直すよい窓口になるはずだ。しかし、つながりを持たないからこそ、イベントや支援センターの存在といった情報を届けるのは、容易ではないのもまた事実なのだ。
 こうした社会とのつながりを持たずに暮らしている障害者にも積極的に支援を届けようと、行政の分野を横断して活動に取り組んでいるのが、今回取り上げる事例である。
 障害者芸術活動支援モデル事業(障害者芸術文化活動普及支援事業の前身。以下、モデル事業)が実施されていた2014年から現在まで、継続して宮城県で障害者芸術文化活動支援センター(以下、支援センター)を担うエイブル・アート・ジャパンの柴崎由美子さんに話を聞いた。


 これまで、障害者に向けた情報伝達の手段として、福祉施設や当事者団体に働きかけることで、新しいサービスや動向を共有してきていた。行政の担当窓口も、そうした団体とのネットワークを通じた情報交換網を丁寧に整備してきている。しかし、インターネットが発達した現在では、若年層ほどネットを通じてより良い情報にアクセスしようとする動きが生まれてきており、当事者団体に所属していない人も増えてきている。コロナ禍でイベントなどのオンライン化が進んだこともあり、どうやら、障害者の情報環境にはここ数年で大きな変化の波が押し寄せてきているようだ。

柴崎 SOUP(障害者芸術活動支援センター@宮城の愛称)では最初の3〜4年間、福祉施設に向けたアプローチに力をいれていました。ただ、福祉施設の方々は、就労支援や工賃アップの流れを意識して、アートを仕事にする視点であれば参加率は高いのですが、芸術活動を通じた場づくりや環境形成については、あまり関心を持ってもらえませんでした。

机の上に絵が描かれた紙を広げ、2人が作業をしている様子

机の上に色とりどりの紙が置かれ、参加者が机のまわりに集まって話を聞いている様子

「SOUPのアカデミア」の活動の様子


SOUPでは、日常的に障害者と接点を持ち、居場所や宛先になることで、広義の意味で表現する場における包摂をいかに可能にするかという視座を持ち、活動に取り組んでいる。2018年からはアプローチ先を切り替え、だれもが参加できるオープンアトリエや、生涯学習や社会教育の観点から「SOUPのアカデミア」のプログラムをスタートした。参加者は不登校の児童、在宅の障害者、発達障害のある30〜40代とその家族など。既存の情報網に組み込まれていないアプローチ先に、どのように情報を届けているのだろうか。

柴崎 まず市政・県政だよりで支援センターの存在周知を徹底してやっています。県の障害福祉課は地元の新聞やラジオに枠を持っており「広報する情報はありませんか」と定期的に情報収集をしてくれますので、絶えず記事を提供しています。現在、私たちは年に2〜3回、枠に掲載していただけるようになりました。プログラムに参加した在宅の障害のある人や、相談の電話をくれる県北や県南など、遠方で暮らす在宅の障害のある人が、実際に目にした媒体は、そうした行政が持つメディアが多いです。

活動のチラシ

SOUPが実施する事業のフライヤー


また、仙台市には福祉施設を利用しない障害者の支援やさまざまな事業を企画する「障害企画課」という部署がある。障害企画課は特例子会社などとのつながりを持っており、その窓口を通じて企業就労している障害者に情報を届けた。SOUPのアカデミアには2名の参加があった。情報発信力の強化には、行政とのネットワークも欠かせない。

 支援センターと接点を持っている行政の課は、福祉、文化、教育などです。障害のある人には分野が縦割りになってしまうことで不利益が生じることがあり、今年は思い切ってモデル事業を終了した2017年以来はじめて2021年11月15日に協力委員会を開催しました。国の各省庁がいろいろな政策を打っている中で、地元行政とも情報を共有していかなければなりません。協力委員会では、支援センターの役割や、障害と芸術文化さらには生涯学習に関わる意義を紹介させていただき、理解を深めてもらうとともに、それぞれの部署や政策の中でできることを、一歩ずつ進めていきませんかと働きかけました。

参加したのは宮城県と仙台市の関連部署の主事、文化財団や福祉センター、NPOなどである。柴崎さんは、精神障害を持つ40代の人がグループホームに居住しながらもひきこもり状態が続いたケースについて、協力委員会で紹介した。

柴崎  7月に相談支援事業所から、「病院の調整や次の支援を模索するなかで、絵を描くことが好きということと、SOUPの名前が出てきた。何かきっかけはないか?」という相談を受けて、SOUPのアカデミアのチラシを送付しました。しばらく連絡がなかったので、9月に相談支援事業所にこちらから連絡し、10月のSOUPのアカデミアの作品鑑賞会を案内。本人に許諾をもらってメールで数回やりとりし、zoom参加の方法を説明して、10月の鑑賞会にオンラインで参加をするに至りました。
その後、この人は外出意欲が高まったものの、躁(そう)状態に入っているとの看護師の見立てもあり、SOUPとしては見守っていましたが。12月現在では、福祉施設に通所し始め、SOUPのオープンアトリエにも参加しはじめています。

 柴崎さんは、ひきこもりの人のなかにもしんどさが生まれているコロナ禍の現状について、協力委員会で言及をした。また、若年層や非正規の若い女性に自殺者が増加しているデータを紹介しながら、今回の事例も場合によっては命に関わる事例だと紹介したという。

柴崎 単に障害者の相談支援といっても、一人の人にとっては縦割りの分野は全く関係ありません。どこからどうアプローチをすると、その人にとっての社会につながるのか。安心感や何かしたい気持ちが生まれるかについては、分野横断的な支援体制が重要で、それが支援センターのもつ役割のひとつだと思っています。行政は分野においてスペシャリストなので、私たちのような分野横断型の活動や情報の要となる団体を、うまく活用してほしいとお願いしました。

協力委員会において、情報共有を行うことで、行政各部署は積極的な協力と連携の動機を明確に得ることができる。実際に、年明けの2022年2月に予定していたイベントのチラシ配布に関し、仙台市と宮城県の教育委員会がそれぞれ管轄する支援学級と支援学級のすべての児童生徒の家庭に行き届くよう手配してくれた。行政のネットワークを情報発信に結びつけた好例である。

柴崎 興味深かったお話があります。仙台市は障害のある人に向けたコロナワクチン接種のわかりやすい案内状を作ったんです。けれど、障害者の個別の住所情報までは把握しておらずに、情報を届ける困難さに直面して反省されていました。今後はおそらくデジタル化などが進んで、障害のある人にピンポイントにでも情報を届けられるよう、行政も取り組んでいくのではと思っています。将来は私たちもそうした仕組みを利活用させていただけるといいですね。

スクリーンにプロジェクターでスライドが写され、スクリーンの横で発表者が話をしている

スクリーンに絵が写され、それについて発表者が話をしている様子

アカデミアでの発表会の様子


 行政でもまだまだかゆいところに手が届かなかった現状があるということだ。SOUPアカデミアに参加する在宅の当事者に「どうやったらこの活動をもっと広げられますか」とたずねたとき、「私が情報を得られた機会のような、あらゆるアプローチ、あらゆる方法で、とにかく情報発信をやり続けて欲しい」と話していたそうだ。「参加してみたら絶対に世界が広がる。障害のある個人にはまだまだ情報が届いていないと思うから、やり続けてください」と。活動も情報発信も、一時的なことでは意味がない。やり続ける姿勢が重要である。

柴崎 エイブル・アートが考える芸術文化のゴールも福祉のゴールも、それは普通に暮らす幸せを実現することです。そのための方法論や寄り添い方、優先順位が違うだけで、芸術も福祉も、地続きの活動なのかなと思っています。

 今回は特に広報発信の取り組みとしてSOUPの活動を紹介したが、ほんの少し話を聞くだけでも、2014年から続くSOUPの活動の豊かさと、継続の重要性がよくわかる。例えば、前出のアカデミア参加者は、2016年にSOUPの活動に初めて参加したという。その後、社会生活の中で公募展に入選し作品の二次利用を依頼された際などに、SOUPの支援を受けてきた。最近ではSOUPのアカデミアで発表者の立場を務めるなど、自ら情報を発信する側になっている。この人も、もともとは入退院を繰り返しながら、在宅で絵を描く暮らしをしていた人で、福祉施設とのつながりを持っていなかった。

成人発達理論のひとつでは、障害の有無を問わずに、ひとの変容には5年がかかるといわれている。変容には心理的安全性が確保された環境での、人との関わりがやさしく作用する。

柴崎 教育学者の大田堯さんが『ひとなる』という本で、「教育は究極のアート活動」とおっしゃっています。また、「人は違うということの前提に立って、人は関わり合うことで変わっていく。人はそういう生き物、生命体である」と、言っていて、この本を読みながら、私たちの活動にも重なることが多くあり、支援センターやエイブル・アートの活動は、人々がお互いを認め合って自己成長していけるような可能性のある場なのではないかと、あらためて感じました。

机で絵を描く様子

ホワイトボードにアトリエで行われるタイムテーブルが書かれている。参加者はホワイトボードを見ながら説明を聞いている

アトリエでの活動の様子


これもSOUPのアカデミアに参加する当事者の言葉からの引用になるが、「行っても行かなくてもいいと許容してくれる場が社会では少ない」のだと。世間の常識を押し当てては不利な状況になってしまう障害者にとって、まず自分の存在をありのままに受け止められる場の存在こそが、成長を後押しできるのだろう。また、ダウン症の子供を持つお母さんは、「自分がいかに育てたい像を押し付けて、トレーニングをしてきたか。SOUPのスタッフとの関わりでよくわかった」と、話してくれたそうだ。

自主性ややりたいことが、人の内側でゆっくりと育っていく居場所。SOUPが実践している芸術活動とは、人を育む姿勢をもつ人がつくる、あたたかい場のことなのかもしれない。

 現在、SOUPがこつこつと取り組む様々なネットワークづくりを通じて、またはインターネットをよく利用する層にも届くように、様々なアプローチによって、芸術文化活動に触れられる居場所の存在がよく知られ、ひとりでも多く変化のきっかけをつかんでくれたらと願う。

(文・友川綾子)
記事制作協力:NPO法人ドネルモ



柴崎さんの顔写真

柴崎由美子

宮城県仙台市生まれ。1997 年より障がいのある人たちの表現活動にかかわる。たんぽぽの家アートセンターHANA(奈良)のディレクター(2004年〜2009 年)を経て、障がいのある人のアートを社会に発信し仕事につなげる「エイブルアート・カンパニー」設立・事務局(2007 年〜)。障害者芸術活動支援センターを宮城で設立・運営(2014 年〜)。障がいのある人とともに今そこにないプログラムをつくること、東日本大震災からの復興支援活動がライフワーク。

 

◆障害者芸術活動支援センター@宮城(愛称:SOUP)ウェブサイト

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